「モトタイムズ」はヤマハSR400/500をメインに
ネオクラシック&ストリートバイク情報を発信する
カスタムバイクWEBマガジン

特集
2015.07.23

インタビュー/井上ボーリング代表・井上壯太郎さん(前編)

インタビュー/井上ボーリング代表・井上壯太郎さん(前編)

inoue01
変わることなく生産され続けるSRだからこそ、自分の愛車も変わることなく乗り続けたい……そう思うSRオーナーは多いはず。そんな声に応えるカタチでリリースされたのが、オリジナルアルミスリーブを純正シリンダーに打ち変える井上ボーリングの技術サービス「ICBM(Inoue boring Cylinder Bore finishing Method) 」だ。今回は井上ボーリング代表の井上壯太郎さんに「ICBM」についてはもちろん、同社の成り立ちや井上さん自身のバイク観などを聞いた。
取材協力:井上ボーリング

 
スポンサードリンク

 

 

井上ボーリング設立から変換期、
そしてSRの魅力まで……

編集部 ーまずは井上ボーリングさんの設立について教えてください。

井上壯太郎さん(以下、井上)「1953年(昭和28年)、戦争が終わってまだ8年しか経っていない混乱期に戦争から帰ってきた親父が『何か商売をしないと生きていけない』ということで、この仕事をはじめたのが井上ボーリングのはじまりです。もともとは祖父が東京でタクシー会社をやってたということで、なにか自動車関係の仕事で起業しようということだったんでしょうね。
 ところが自動車整備や販売店ではなく、エンジンの中のさらに中の部品を加工するということころを選んだ。当時は自家用車なんてものがない時代で、それこそ親父からすれば自分の父親がタクシーの運転手だったから『エンジンのことくらい知っているよ』くらいのものではじめたんだと思うんですけどね。だけどそこに狙いをつけて、これから日本にもどんどん自動車が増えるから、そしたらエンジンの仕事も入ってきて、どんどん儲かるだろうと思ったんでしょうね(笑)」

編集部 ーだけど、実際そのあと、日本にはクルマが増えましたよね?

井上「そうですね。実際に創業してから自動車がどんどん増えましたから、仕事もどんどん増えたようです。だけど、あるときから自動車のエンジンが全然壊れないように進化していきまして、それで僕が会社に入るときに……一気に20年くらい端折りますけど(笑)……そこまでくるともう、自動車はすでに壊れない時代になっていたんですよ」

編集部 ー井上さんがお父さんの会社(井上ボーリング)に入社したのは、何年頃なんですか?

井上「1980年くらいかな。僕が入社したときには会社はすでに下請け色が強くなっていて、ホンダさんやピストンリングのリケンさん(株式会社リケン)のお仕事だとか、いろんなことをやっていました。ただ、さらに時代が過ぎると、そうした下請け仕事もみんな中国だとかインドだとか、海外に出ていくようになって、メーカーの下請けも頭打ちになってしまった。それで、『さあ、何をやろうか?』と僕が考えたときに出た結論が『創業回帰』。脱下請けをしようと考えたのです。それが今から15年くらい前ですね」

編集部 ー「脱下請け」というのは、具体的にいうとどういったものなんですか?

井上「個人のお客さんやバイクショップなど、そういう方々から仕事をいただくということに絞ったんです。徐々に業態を変えていって、それで12~3年前には明らかに転身して、個人やバイクショップ向けに変えました。さらに、その頃はインターネットが普及してきて、自分で『ああでもない、こうでもない』なんて言いながら自社サイトを作りました。同時に宅配便が進歩してきた時代でもあって、ホームページから注文が来て、宅配分で送ってもらうということができるようになった。本当に北海道でも沖縄でも荷物が次々に届くようになって、しかも代引きで集金までしてくれますからね。そういうふうに世の中がすごい勢いで変わっていったタイミングに、ウチも一生懸命乗り遅れないようにしたという感じ……いまはほとんど通販会社になっているくらいですよ(笑)」

編集部 ーということは、インターネットや宅配便が普及するまでは、受注の仕方もまったく違うものだった?

井上「それまでボーリング屋っていうのは各町々にあって、ウチも新宿、板橋、熊谷に川越と営業所がありました。それぞれの営業テリトリーに営業さんが4~5人いて、彼らが整備屋さんまで走っていってエンジンを積んで帰ってきて、工場で加工して届けて、また別のときに集金に行って……っていうのが一般的でした。そういうボーリング屋さんが日本全国にあったんです。
 だけど、それがちょっとずつ仕事が減ったきたなかで、ウチは日本中から仕事が取れるようにしようと考えた。インターネット以外にも、雑誌にも紹介していただいて……業態がガラッと変わりましたよ」

編集部 ー世の中の流れをきちんと読まれてたということですね!

井上「何かできることはないかと必死にしがみついていただけですけどね(笑)。
 だけどウチは創業時、つまり昭和30年代から雑誌広告といえば自動車ではなくてバイク雑誌でした。キャッチコピーも『バイクのクランクが得意です』なんて書いているんですよ。ボーリング屋さん全体でいうと四輪向けが大半です。だけどウチは当時から小さいもの……バイクや軽自動車なんかを得意としていて、ちょうどインターネットの時代には都合が良かったんです。これがもしV8エンジンやトラックのディーゼルエンジンだったら、クロネコヤマトで送れないでしょう(笑)。そういう意味では、今のやり方や時代と適性が合っていたんだなぁと思いますね」

編集部 ー井上さんのお父さんもバイクが好きだったんですか?

井上「そうなんです。BMWが大好きで、70歳を過ぎるまでR60に乗ってましたね。
 仕事に関しても創業当時からバイクが得意で、ホンダさんのクランクなんか盛んにやってました。“クランク・ジグ”というのを親父が考えて、誰でも簡単に作業が出来るようにしたというのは結構ヒットだったんですよ。当時は宅配便がない時代で、『新宿の貨物駅で伊勢丹の次に井上ボーリングの荷物が多かった』なんて、よく自慢していました(笑)」

 
inoue02
株式会社井上ボーリング代表 井上壯太郎さん
同社代表で生粋の趣味人。インタビューにもあるように、ブルタコを5台所持し、ロードレースやモトクロス、トライアルなど、とにかく走る!! ほかにもマリンスポーツや、最近では二眼レフカメラにもハマっているとか!?
 

編集部 ー井上さん自身のバイク歴を教えてください。

井上「高校がバイクの免許を取っちゃいけないところで、免許を取得したのは大学3年生のとき。高校のときに免許を取った悪友たちは、当時免許区分がなくて大型バイクに乗れるんだけど、僕が(免許を)取る時は中型限定(現普通二輪免許)と限定解除(現大型二輪免許)に分かれていたんです。だから僕は中型しか持っていないんですよね。でも、バイク自体は大学から好きで、ずっと乗っています」

編集部 ーそのなかでSRを所有したことはありますか?

井上「残念ながら自分で持ったことはないです。営業部の大澤くんが持っているんですけどね、ウチのサイトなどにもよく登場していますよ」

編集部 ーマルーンカラーの?

井上「そうです」

編集部 ーでは、井上さんはどういったバイクが好きなんですか?

井上「じつは一番最初に買うときにSRはちょっと欲しかったんですよ。欲しかったんですけど、買ったのはヤマハの空冷二気筒モデル・GX250。それにGX400のエンジンを積みかえたりして、どっちかというとSRみたいにして乗ってました。シングルシートをつけて、ホイールも大八キャストがイヤでスポークホイールに変えて……パッと見だとSRなんだけど、『あれ?これなに? 2気筒じゃん!!』みたいな感じで乗ってましたね。当時すでにRZも出てたのに、なぜかGXを買っちゃった(笑)』

編集部 ーだけど最近、この辺りの空冷絶版車の価格が高くなってきていますよね。

井上『でもGX250はあんまり見ないですよね。当時から人気が無さすぎた(笑)。重いし、あんまり速くなかったし……だけど僕は好きでしたね。ずっと好きでしたよ。
 当時から僕はバイクをぶっ飛ばすという……いまはサーキットを走ったりもするんですけど……あんまりそういう“ぶっ飛ばす”というのはどうなんだろうな、と思っていて、自分のバイクに“アダージョ”という名前をつけていたくらい。アダージョとは『ゆっくり』という音楽用語なんですけど、風を感じたりする程度の速度が、オートバイには一番向いてるんであって、裸で乗るようなオートバイをものすごいスピードで走ることに意義を感じる人たちって、少し頭がおかしいんじゃなかなと思ってるんです(笑)。
 オートバイの面白さというのは、どちらかというと低速域にあると思っています。いわゆる『味のあるバイク』に魅力を感じていましたね」

編集部 ーなるほど。そんな井上さんが『味のある』と感じるバイクは、他にもありますか?

井上「いまブルタコに凝ってます。出会ったのはバイクに乗りだしてからだいぶ後なんですけどね。ウチは会社としては2ストロークのエンジン加工が得意で、ホンダさんのレーサーなど、2ストロークには非常に縁があるんです。そんな2スト好きが高じたところもあって、ブルタコに凝っている。
 ブルタコっていうのはおかしなメーカーで、創業してから潰れるまで、2ストロークの単気筒エンジンしか作ったことがないんです。その2ストローク単気筒エンジンでロードレースもやればモトクロスもやる。さらにエンデューロやフラットトラックもやればトライアルもやっちゃう……だけどエンジンは全部一緒! フレームだってほとんど同じなんです(笑)。本当にのどかな時代だなと思いますよ。
 でも、そんな2ストロークが好きなんですよね。回り方もいい加減で、『ぽこんぽこん』といったり、『ぺちんぺちん』っていったり……だけど一瞬ブワーンとパワーが出たり。そんな面白さというのは2ストロークならでは。なかでもブルタコが大好きです。いま所有するのは5台。それでロードレースに出てみたり、トライアルをやってみたり、モトクロスにも出ていますよ」

編集部 ー僕はブルタコには乗ったことはないんですが、他のメーカーの2ストロークとも違うんですか?

井上「面白いところはいろいろあるんですけど、まあそんなにズバ抜けて凄かったわけではない。どちらかといえばB級メーカーですもん(笑)。一番最初だけちょっとロードレースで勝って、花が咲き始めるかなと思ったけどすぐに勝てなくなって。安かったのもあってモトクロスではけっこう売れたけど、ヤマハやホンダが出てきたら全然勝てなくなって。最後、トライアルでは世界チャンピオンでしたけど、バイクの性能はあんまり関係ないからね(笑)。ライダーの腕ですもんね。それでそのまま潰れちゃいましたよね、1983年かそれくらいに。
 そんなメーカーなんで、ものすごく性能が良いとかじゃないんです。だけど、ものすごくシンプルなんですよ。だって2ストローク単気筒しか作っていないから、もうこれ以上シンプルなオートバイはないわけです。でも、それでありながら色んなことができる。格好だってわりと良い。これは本当に面白いバイクだな、って僕は思ってますよ」

編集部 ーブルタコの魅力、それと井上さんのバイクの好みは非常によく分かりました! そこで素朴な疑問として沸き起こるのは、こういうお仕事をされていて、ブルタコとは真逆……つまり複雑な機構を持つ最新のエンジンなんかには興味は湧かないんですか?

井上「僕は今の最新のものには正直、ほとんど興味が湧かない。『あんなものなんで買うんだろう?』としか思えない」

編集部 ー機械としての魅力も感じないのですか?

井上「あまりにも精巧にできすぎて、手の入れようがないんですね。だから商売としてもまったく手の出しようがないし、知識としてメカニズムを見たりするのは面白いんですけど、個人的な興味や所有する意欲は全く湧いてこないですね。ブルタコや古いバイクを直している方が断然面白い。申し訳ないんだけど、新しいモノが良いとも思えない。
 というのも、20世紀にはエンジンの馬力を一生懸命出すというのは、確かに大事なことだったんですよ。だって、今までにないスピードで走ったり、最高に速いモノを作るということは、人類の進歩に直結していたわけだから。だけど、いま速いオートバイを作っても人類は進歩しないですよ……そんな性能は要らないんだもの」

編集部 ーたしかに僕も、リッタークラスのフルパワーマシンに乗ったこともありますが、タコメーターがほんのちょっとしか動かない。スピードメーターだって300km/hまであるけど、普通に乗っていると左下でぴょこぴょこ動いているだけ(笑)。

井上「要らないんですよ。それにそんなスピードは出しちゃいけないんだもん。そんなバイクをみんなで一生懸命面白がろうとしてるんだけど、『本当はそんなの面白くない』って、誰もが分かっているハズ。『みんな、もっと正直になろうよ』と思いますけどね……」

編集部 ーやっぱり見栄で乗っている部分もあると思いますねぇ……。では、2ストローク好き、シンプルなエンジンが好きだとおっしゃる井上さんが思う『純正SRエンジンの良さ』とは、どこにあるとお考えですか?

井上「SRもシンプルなところが好きなんですね。なんといっても4ストロークでこれだけシンプルなわけですから、それだけで素晴らしいと思います。
 別に無理にブルタコに結びつけるわけではないんですけど、やっぱりブルタコがこれ以上ないシンプルなものでありながら、ロードレースからトライアルまで何でもできるわけです。それと同じで、SRもこれだけシンプルで、これ以上シンプルになれないものでありながら、たとえばSRミーティングに行くと本当にいろいろなカスタムがあるわけじゃないですか。それってつまり、どんなものにでもなれるというわけですよ。
 しかも、オートバイの面白さを最初から……SRは改造なんかしなくても、純正のときから持ってるんだと僕は思う。それもこれも、すべてシンプルであるからこそ」

編集部 ーたしかにSRはノーマルで乗っても十分に楽しい。だけどSRミーティングに行けば、同じ仕様は2台とないですね。単一車種であれだけの台数が集まっているのに!

井上「素材としても面白いし、SRだからこそ何にでもなれる。比較的軽い単気筒ですごくシンプルであるうえに、あれだけカタチを変えられるというのは凄いことではないでしょうか。
 SRって、はじめからオートバイの楽しさを全部持っているんですよ。チューニングもいいけれど、実際はあれ以上速くなる必要はないと思うし、SRを速いという人はあまりいないかもしれないけれど(笑)、僕は十分に速いと思っていますよ」

編集部 ー僕もいまのところ、2台所有するSRのエンジンは、どちらも純正仕様のままでいいと思っています。意外と速いんですよね(笑)。

井上「そう! それに比較的軽いし、元々はXTだからオフロードに行こうと思えば行けちゃうし、カスタムしようと思えば当然できちゃうし、オンでもオフでも走れるし……本当に何でもできちゃうわけなんです。これ以上シンプルにできないにも関わらず、何でもできるんですよ。逆にいえば、ほかには何にも要らないんじゃない? ということ(笑)。SRは本当にスゴいバイクですよ」

 

inoue03inoue04
アルミ無垢材を削り出し、スリーブを製作する。
同社には、昔ながらの工作機械からコンピューターを内蔵した最新の設備までが揃う。

 

inoue05
排気デバイスがつく複雑な2ストロークシリンダーは製作が困難。
しかし、同社ではすでにRZ-RでもICBMでの供給実績があるという。

 

inoue06
現在、力を入れているのが水素バイク!
2ストロークエンジンを使用しながらもCO2を吐き出さない……まさに夢のようなクリーンシステムにも、積極的に取り組んでいるのだ。

後編に続く……

 
スポンサードリンク
広告募集ページへ
 

CATEGORY :
RANKING
LATEST ARTICLES
YOUTUBEチャンネル モトタイムズFacebook